「月40時間」と「月80時間」が生活を分ける、勤務時間で選ぶ会社選び
【この記事のポイント】
建設業の所定外労働時間は平均36時間と全産業の約2倍で、外勤建築では52.1時間、外勤土木では46.6時間と突出して長く、「勤務時間の設計」が働きやすさの分岐点になっています。
正直なところ、「月40時間残業」と「月80時間残業」では、年収の差よりも先に、睡眠時間・メンタル・家族との時間に大きな差が出ます。過労死ラインとされる月80時間以上の時間外労働を経験している建設従事者は21%という調査もあります。
迷っているなら、「一日の終わりにどんな状態で家に帰りたいか」「週に何日休めれば自分は持ちこたえられるか」を目安にしつつ、求人票と面接で具体的な残業・休日・週休2日への取り組みを確認するのがおすすめです。
今日のおさらい:要点3つ
- 建設業の所定外労働時間は平均36.1時間で、全産業平均16.8時間の約2倍。外勤建築52.1時間・外勤土木46.6時間と、現場系が特に長い。
- 建設業従事者の21%が時間外労働+休日出勤の合計が月80時間以上、20%が「月45時間超えの月が年7ヶ月以上」あり、法令水準を超える長時間労働が常態化している実態が示された。
- 月45時間以内なら健康リスクは比較的低いが、月80〜100時間を超えると脳・心臓疾患やメンタル不調のリスクが急激に高まり、「月100時間超」は平均睡眠5時間以下の生活に相当するとされている。
この記事の結論
一言で言うと「建設業で無理なく働き続けるには、“月45時間以内の残業”と“週休2日(4週8休)に近づこうとしている会社”を選ぶこと」が最優先です。
最も重要なのは、「月の残業時間の実績」「年間休日と週休2日の有無」「工期と人員の考え方」「内勤か外勤か」「自分の体力と家族状況」の5つをセットで見ることです。
失敗しないためには、「求人票の数字」だけでなく、「繁忙期の上限」「月80時間を超える月数」「週休2日工事や交代制の導入状況」「長時間労働が減った具体例」を面接で聞き、今の働き方改革の“本気度”を見極めることです。
建設業の勤務時間の現実を数字で押さえる
建設業の残業時間は、全産業の約2倍
ある建設業の労働組合による「時短アンケート」では、2023年の所定外労働時間の平均は36.1時間で、前年から4時間減少したものの、全産業平均16.8時間と比べて依然として非常に長い水準とされています。特に、外勤建築は52.1時間、外勤土木は46.6時間と、現場系の職種で残業時間が突出していることが報告されています。
国土交通省の資料でも、建設業の年間総実労働時間は全産業より340時間以上(約2割)長く、過去20年間で全産業が約255時間減少しているのに対し、建設業は約50時間しか減っていないと整理されています。正直なところ、「建設業の長時間労働はだいぶ改善した」と言われても、まだ他産業よりかなり長いのが現実です。
月80時間以上の時間外労働をしている人が21%
ある企業が建設業従事者4,494人を対象に行った「建設業2024年問題に関するアンケート」では、2023年の時間外労働と休日出勤の月平均実績が「80時間以上」の人が21%という結果でした。また、「時間外労働+休日出勤の合計が月45時間を超えた月が年に何ヶ月あったか」を聞いたところ、7ヶ月以上あった人が20%と、労働基準法上の上限(原則月45時間・年360時間)を超えている可能性のある層が一定数いることが明らかになりました。
厚生労働省の資料では、月45時間以内なら健康障害リスクは比較的低い、月80時間以上や2〜6ヶ月平均で月80時間超になると脳・心臓疾患のリスクが高まる、月100時間超は平均睡眠時間5時間以下に相当し健康障害リスクが大幅に上昇する、とされており、建設業の一部では、この「過労死ライン」に近い働き方がまだ残っていることになります。
筆者の実体験①:月80時間残業の現場で感じた「生活の崩れ方」
数年前、私はある建築現場の広報取材で、月の残業時間が80時間前後続いていた施工管理Kさんと話しました。彼は、「施工管理 きつい」「現場 残業 限界」と調べながら、毎日終電近くに帰宅していました。
「実は、夕飯をちゃんと食べた記憶があまりなくて。コンビニのおにぎりか、カップ麺か。家に着くとシャワー浴びて、そのままソファで寝落ちして、気づいたら朝なんです。」と彼は話していました。彼の場合、平日の睡眠時間は4〜5時間、休日は月2〜3日(うち1日は寝て終わる)という生活が半年以上続いていました。
ある日、所長の前で一瞬ふらついて図面を落としたとき、所長が「お前、最近顔がやばいぞ。一回ちゃんと休んだ方がいい。」と一言かけました。その一言で、彼は初めて自分の状態に気づき、産業医面談と配置転換を経て、月40時間前後の現場に移ることになりました。
「翌朝の目覚めが、全然違いました。ちゃんと“今日一日をやり切れるかも”って思えるようになったんです。」と話していたのが印象的でした。この経験から、「月40時間と月80時間の残業の差」は、単なる数字ではなく「生活があるかないかの差」だと痛感しました。
無理なく働ける勤務時間の目安と会社の違い
月45時間以内と月80時間超、「身体と心」の違い
厚生労働省や建設業のメンタルヘルス検討委員会の資料では、長時間労働が、うつ病・不安障害などの精神疾患、慢性的疲労・睡眠不足、集中力低下と不安全行動(事故・災害リスク)を引き起こすリスクを高めるとされています。
特に建設業は、高い身体的負荷(重い資材・高所作業)、気候条件(暑さ・寒さ・雨)、安全へのプレッシャーなどが加わるため、長時間労働の影響が他業種よりも重く出やすいと指摘されています。
目安として、月45時間以内は生活リズムを保ちながら働けるライン(ただし個人差あり)、月60時間前後は繁忙期として一時的になら許容範囲だが常態化すると疲弊しやすい、月80〜100時間は健康リスクが高まり「続ける」前提で考えるべきではないライン、と考えると、自分がどこまでなら現実的に耐えられるかをイメージしやすくなります。
4週4休と4週8休、「週のリズム」の違い
国土交通省の資料では、建設業の休日状況について、「4週8休(週休2日)」を確保できている技術者は約2割程度にとどまり、約4割が4週4休以下で就業している状況が示されています。
ある調査では、2023年11月の休日取得状況は全体で月9.2日、内勤9.7日、外勤8.9日となっており、外勤者は土曜・祝日出勤が多く、「実質的な週休1日+α」に近い働き方がまだ多いとされています。
「週1日は必ず完全オフ、もう1日は半分仕事・半分休み」という週と、「週2日は完全オフ」という週では、体力とメンタルの回復度合いがまったく違います。建設業で無理なく働くには、4週8休に近づこうとしている会社かどうかが重要な判断基準になります。
筆者の実体験②:週休1日から4週8休工事に変わった現場
ある公共工事では、国土交通省の「週休2日モデル工事」の対象になり、週に2日の閉所日(現場を動かさない日)、工期設定の見直し、曜日交代制の導入が行われました。
以前は、実質週休1日で日曜も半日出勤が当たり前だった現場が、4週8休に近い形になったことで、若手の施工管理Sさんは、「実は、週に2日ちゃんと休めるようになってから、資格の勉強をする気力が戻ってきたんです。」と話していました。
「家族との会話にも笑顔が増えました。週の終わりに“明日も現場か…”とため息をつくことが減りました。」とも語っていました。制度が変わっても大変な時期はあるものの、「週の中でリセットできる日が2日あるか1日か」で、働き続けられる年数のイメージが大きく違っていました。
勤務時間で変わる「働きやすさ」と会社の選び方
内勤・外勤・職種による勤務時間の違い
データでは、内勤技術者は所定外労働時間が外勤より短く休日取得もカレンダーに近い一方、外勤(建築/土木)は残業時間が長く休日も減りがち、という傾向があります。
また、職種によっても特徴が異なります。施工管理は工程・品質・安全管理でトラブル対応が多く工期前後に残業が増えやすい、職人は朝早く夕方上がりが多いが現場によっては土曜出勤が常態化、設計・積算・CADは納期前に残業が偏りやすいが在宅やフレックスを導入しやすい会社もある、といった具合です。
「建設業はどこも同じくらい忙しい」というより、「どの職種を、どの会社でやるか」で勤務時間のリアリティが大きく変わります。
働き方改革と週休2日の取り組み状況を見る
国土交通省は、建設業の働き方改革の一環として、週休2日工事・交代制モデル工事の拡大、適正な工期設定、直轄工事における完全週休2日の推進などを進めており、令和5年度には直轄工事の原則全てで発注者指定方式により週休2日を確保することを目指すとしています。また、令和7年度以降は、猛暑対策や変形労働時間制、関係者間調整の円滑化など、多様な働き方を支援する方針も示されています。
転職時には、自社や受注工事で週休2日工事の実績がどれくらいあるか、週休2日を実現するために工期や人員配置をどう工夫しているかを質問してみると、その会社の“本気度”が見えます。
よくある失敗:「繁忙期だから今だけ」を信じ続けてしまう
時短に関する調査では、「月100時間以上の所定外労働をした組合員の割合」は3.5%とされていますが、月80時間以上の残業や、年間を通じた45時間超えの月の多さを見ると、「繁忙期」が長期化している現場も少なくありません。
よくあるのが、「今の現場が終われば落ち着く」と言われ続ける、気づけば1年中月60時間前後の残業が続いている、週休2日と説明されていたが「土曜はほぼ出勤」が暗黙の了解になっている、というパターンです。正直なところ、「今だけ」が半年以上続いている現場は、構造的に人手不足か工期に無理がある可能性が高いです。
よくある質問
Q1. 建設業で無理なく働くなら、残業時間の目安はどれくらいですか?
A1. 健康リスクや生活リズムを考えると、月45時間以内が一つの目安です。繁忙期に月60時間前後まで増えることはあっても、それが常態化する会社は慎重に検討した方が安全です。
Q2. 週休2日と書いてあっても、実際は違うことがありますか?
A2. あります。4週8休なのか、隔週土曜休みなのか、現場の閉所日と自分の休日が一致しているかなどを確認する必要があります。
Q3. 建設業の長時間労働は本当に改善されているのでしょうか?
A3. 全体として所定外労働時間は減少傾向にありますが、依然として全産業の約2倍であり、月80時間以上の残業をしている人も2割前後存在するなど、まだ課題は大きいです。
Q4. 長時間労働が続くと、どんな健康リスクがありますか?
A4. 脳・心臓疾患のリスク上昇、うつ病や不安障害などのメンタル不調、慢性的な疲労や睡眠不足による集中力低下・事故リスク増大などが指摘されています。
Q5. 勤務時間の短い会社=良い会社と考えていいですか?
A5. 必ずしもそうではありません。極端に残業が少ない一方で、給与が低すぎたり、教育・キャリアパスが弱い会社もあります。自分の優先順位(収入・成長・健康)とバランスで判断するのが現実的です。
Q6. 転職活動で勤務時間の実態を見抜くにはどうすれば良いですか?
A6. 求人票の残業時間・年間休日に加え、「繁忙期の最大値」「月80時間を超えた月数」「週休2日工事の割合」「直近での改善事例」を具体的に質問し、答え方を確認するのが効果的です。
Q7. 今の会社で残業が多すぎる場合、まず何から動くべきですか?
A7. 自分の残業時間と体調を整理し、上司や人事に相談するところからです。それでも改善が見込めない、法令違反レベルの長時間労働が続く場合は、労働基準監督署や専門窓口、あるいは他社への転職も視野に入れるべき段階です。
まとめ
建設業の勤務時間は、全産業と比べて年間総労働時間で340時間以上長く、所定外労働時間も平均36時間と約2倍の水準にあります。調査では、建設業従事者の21%が月80時間以上の時間外労働+休日出勤を経験し、月45時間超えの月が年7ヶ月以上ある人も20%と、「過労死ライン」に近い働き方が一部で続いています。
国土交通省や業界団体は、週休2日工事・適正工期・直轄工事の完全週休2日など、働き方改革を推進していますが、会社や現場による差はまだ大きいのが実情です。だからこそ、勤務時間の設計に本気で取り組んでいる会社かどうかが、無理なく働き続けられるかどうかの分かれ目になります。
無理なく働ける会社を選ぶには、残業時間(月45時間以内を目安に、繁忙期の上限・年80時間超の有無を確認)、休日(年間休日と4週8休の実現状況)、職種・配属(外勤か内勤か、施工管理か設計・積算かで傾向が違う)、働き方改革(週休2日工事・交代制・工期見直しなどへの具体的な取り組み)という観点を押さえることが大切です。そのうえで、自分の体力・年齢・家族構成を踏まえ、「どこまでなら続けられるか」を先に決めてから会社を選ぶと、長く働ける職場にたどり着きやすくなります。
長時間労働や心身の不調は、ときに健康に関わる深刻な問題につながることもあります。もし今つらさを抱えている場合は、一人で抱え込まず、産業医や信頼できる人、専門の相談窓口に話してみてください。
